
Marco Van Leeuwen氏(ALICEスポークスパーソン)、Vincenzo Vagnoni氏(LHCbスポークスパーソン)
写真提供: Getty Images for Breakthrough Prize
アメリカGoogle創業者らが出資するブレークスルー財団主催の、自然科学分野の国際的な学術賞「2025年ブレークスルー賞」が、4月5日(日本時間4月6日)に発表されました。その基礎物理学部門において、欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を用いた4つの国際共同実験(コラボレーション)が受賞しました。
2012年にヒッグス粒子を発見したATLAS実験には、日本からも東京大学(スタッフ・大学院学生34名)、高エネルギー加速器研究機構、筑波大学、お茶の水女子大学、早稲田大学、東京科学大学、東京都立大学、信州大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、神戸大学、九州大学の13の大学・研究機関から約160名の研究者が参加しており、素粒子物理国際研究センターは現地に本学の海外拠点を構築して国際的ハブの役割を果たすとともに、CERNとの覚書により「ATLAS地域解析センター」を学内に設置し、世界LHCコンピューティンググリッド(WLCG)の一翼を担っています。
CERN公式ホームページに掲載された受賞ニュース記事の和訳版(ATLAS実験が関係する記述の要点)をご紹介いたします。
CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)における ALICE、ATLAS、CMS、LHCbの各コラボレーションは、ブレークスルー賞財団より「ブレークスルー賞(基礎物理学部門)」を受賞しました。この賞は、70カ国以上から集まった数千人の研究者が参加する4つのコラボレーションに授与され、2024年7月までに執筆されたLHC第2期実験(Run2, 2015-2018年)のデータに基づく論文が対象となりました。Run2期間中に各コラボレーションを主導したスポークスパーソンが授賞セレモニーに出席しました。
受賞理由は、「質量を生成する対称性の破れのメカニズムを実証するヒッグス粒子の特性の詳細測定、強い相互作用をする新粒子の発見、稀少プロセスと物質・反物質非対称性の研究、最も短い距離と最も極端な条件での自然の探究」です。
「LHC共同研究チームの素晴らしい功績が、この権威ある賞で称えられたことを大変誇らしく思います。この賞は、人類の知の限界を押し広げるために日々貢献している世界中の何千人もの人々の努力・献身・能力、そして勤勉さを称える素晴らしいものです。」と、CERNのFabiola Gianotti所長は述べました。
各実験の運営チームと協議したうえで、ブレークスルー賞財団は300万ドルの賞金をCERN & Society財団に寄付します。この賞金は、コラボレーションに参加する機関の博士課程の大学院学生がCERNで研究に専念するための助成金として使用され、最先端の科学分野での研究経験と各国に持ち帰ることのできる新しい専門知識・技術を得る機会を提供します。
ATLASとCMSは汎用実験であり、LHCの高エネルギー・高強度の陽子およびイオンビームによって提供されるあらゆる研究を追求しています。両実験は2012年にヒッグス粒子の発見を共同発表し、現在もその性質の精密測定を続けています。
「この賞は、世界各国の何千人にも及ぶATLAS研究者の共有するビジョンと甚大な努力を称えるものです。彼らの才能と献身、そして資金を提供いただいた各機関のご支援により、今回受賞となった科学的な大躍進を可能にしました。これらの結果は、宇宙に対する我々の理解を最も基本的なレベルから変革しました。」と、ATLASスポークスパーソンのStephane Willocq氏は述べています。
(※ CMS、ALICE、LHCbの各スポークスパーソンの受賞コメントは、CERN公式ページをご覧ください)
LHC実験では、極めて精密で繊細なこれらのテストを実施することで、基礎物理学の知識の限界をこれまでにないほど押し広げてきました。2030年から開始予定のLHCのアップグレードである高輝度LHCでは、LHCの性能を飛躍的に向上させ、(標準理論を超える新物理の)発見の可能性を高めることが期待されています。
田中純一教授(ATLAS日本共同代表)のコメント
ALICE、CMS、LHCb実験とともに、ATLASがこのような栄誉ある賞を受賞したことは、ATLAS日本グループにとって大変光栄なことであり、誇りに思います。
大学院生を含む研究者の皆さんが、それぞれの興味に導かれて日々研究に励んできたことが、結果として基礎物理学の発展に寄与し、今回の受賞につながったものと考えております。我々の研究は、国境を越えた国際的な共同プロジェクトであり、そのような取り組みが世界の最先端を切り拓いていることを評価いただけたのだと実感しております。
LHC-ATLAS実験は、研究者だけで成り立つものではなく、実に多くの方々のご協力によって支えられてきました。この場をお借りして、すべての関係者の皆様に心より感謝いたします。LHC-ATLAS実験はアップグレードを重ねながら継続され、現在の約10倍のデータで、素粒子標準模型の壁を突破したいと考えております。引き続き、今後の成果にも期待して頂きたいと思います。
石野雅也センター長のコメント
2012年に私たちが発見したヒッグス粒子の性質を、引き続き精密に測定し続けてきた成果(2015-2018年)が、今回の受賞理由の1つであると理解しています。私はこの成果の基盤となるデータの取得について、ATLAS実験の運転責任者(Run Coordinator, 2017-2018年)を務め、チーム全体の指揮を執りました。その中で、他のLHCの3実験の研究者やLHC加速器の運転責任者と毎朝議論と調整を重ね、LHCという巨大なシステムの能力を最大限に引き出すことで貢献したと考えています。
今回の賞金は、「次世代の研究者がCERNでの研究(LHC実験)を経験し、最先端の科学研究を通じて成長する機会を提供する」ために活用するとされており、非常に意義深く、心より感謝しています。今後も最先端の研究現場から国際的に活躍できる研究者が育つサイクルを継続していけるよう、最大限の努力を重ねていきたいと考えています。
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